東京高等裁判所 昭和59年(行ケ)179号 判決
一 請求の原因一(特許庁における手続の経緯)及び二(審決の理由の要点)の各事実は、当事者間に争いがない。
二 そこで、審決を取り消すべき事由の存否について検討する。
1 成立に争いのない甲第二、第三号証によれば、本件登録意匠と甲号意匠はいずれも、意匠に係る物品を「包装用容器の封印冠」として一致していること、両意匠の基本的構成態様はいずれも、封緘部につき、周胴面を偏平な円錐台筒形にし、その上方周縁には内側方に環状縁面が現れるよう中央の部位に円形孔を形成したものとし、切開部につき、細幅の円環状に形成した引手を環状縁面に沿つて、その外周縁の一端が環状縁面の内側周縁と連続して現れるよう一体状に設けたものであつて、この点において両意匠は共通していること、各部の具体的構成態様として、本件登録意匠は、封緘部につき、周胴面をほぼ円筒状にし、下端周縁のみが円錐台筒形状となるよう形成されていること、切開部につき、引手の幅は環状縁面とほぼ同じであつて、引手の内側周縁の一端から中心方向へ角丸の小横長台形状の摘みが形成され、引手は、環状縁面と連続した円周方向に幅の広い開封面(切開部中央の円形孔の中心点と開封面の左右各端とを結ぶ各線のなす開き角度は約四五度)及び条状の吊り片三個により環状縁面との間に細溝が現れるよう設けられたものであること、甲号意匠は、封緘部につき、周胴面を僅かに円錐台筒状に形成されていること、切開部につき、引手の幅は環状縁面のほぼ二分の一であつて、引手の外側周縁の一端から外周縁方向へ角丸の小細長台形状の摘みが形成され、引手は、円周方向に細幅の開封面(切開部中央の円形孔の中心点と開封面の左右各端とを結ぶ各線のなす開き角度は約二〇度)及び条状の吊り片二個により環状縁面との間に細溝が現れるよう設けられていることが認められる。
右のとおりであつて、切開部の具体的構成に関して、本件登録意匠と甲号意匠とを対比すると、本件登録意匠における引手の幅は環状縁面とほぼ同幅であるが、甲号意匠における引手の幅は環状縁面に対してほぼ二分の一と狭くなつていること、引手に形成された摘みは、本件登録意匠では引手の内側周縁の一端から中心方向へ形成されていて、引手の幅とほぼ同幅(したがつて環状縁面とほぼ同幅)の高さをもつた甲号意匠のそれよりは大きい横長台形状をしているのに対して、甲号意匠では引手の外側周縁の一端から外周縁方向へ形成されていて、引手の幅とほぼ同幅(したがつて環状縁面のほぼ二分の一の細さにほぼ等しい)の高さをもつた、本件登録意匠のそれよりは小さい細長台形状をしていること、引手と環状縁面とを一体に連設する開封面は、本件登録意匠の方が甲号意匠のそれより円周方向に幅の広いものであることの各差異が存することが認められる。
2 本件登録意匠及び甲号意匠に係る物品である包装用容器の封印冠は、その物品としての性質上、需要者によつて、主として上方から観察されるものであることを考慮すると、上面(平面)の形状、即ち切開部の形状が看者の注意を最も惹きやすい要部であるというべきである。
3 ところで、成立に争いのない乙第四ないし第一六号証が本件登録意匠に係る物品と同種の物品についての種々の公知の意匠を示していることは当事者間に争いがない。
そして、前掲乙第七号証(昭和一〇年実用新案出願公告第一七六四五号公報)、同第九号証(昭和四六年実用新案出願公開第一四八号公報)、同第一二号証(米国特許第三四六〇七〇一号明細書)、同第一四号証(米国特許第三六三〇四〇五号明細書)、同第一六号証(米国特許第三八〇四二八三号明細書)によれば、右乙号各証に示されている被告指摘の意匠(以下、乙第四ないし第一六号証を含め、単に、乙号証に示されている意匠という。)においては、環状縁面の内側に溝を距てて、円環状引手が設けられており、乙第九号証に示されている意匠にあつては、環状縁面の幅が引手の幅よりやや狭いこと、乙第一二、第一六号証に示されている各意匠にあつては、環状縁面の幅と引手の幅がほぼ等しいこと、乙第七、第一四号証に示されている各意匠にあつては、環状縁面の幅が引手の幅より広いことが認められ(乙第七号証の第二図、同第九号証の補正後の第1図、同第一二号証のFig.3及び6、同第一四号証のFig.2・同第一六号証のFig.1。別紙第3のうち右各乙号証に対応する乙号表示の図参照)、また、前掲乙第七、第九、第一二、第一四号証によれば、右乙号各証に示されている意匠においては、環状縁面と引手とを一体に連設する開封面が設けられており、切開部中央の円形孔の中心点と開封面の左右各端とを結ぶ各線のなす開き角度は、ほぼ被告が主張するとおりのものであることが認められる(別紙第3のうち右各乙号証に対応する乙号表示の図参照)ほか、前掲乙第五号証(登録第三八一一〇三号意匠公報)、同第六号証(登録第三八四〇九八号意匠公報)によれば、右乙号各証に示されている意匠においては、環状縁面から内側方向に延びた小半円環形状の摘みが設けられていること、前掲乙第九号証によれば、同号証に示されている意匠においては、円環状引手から外側方向に向けて小半円形の摘みが設けられていること、前掲乙第一一号証(米国特許第三二四六七九二号明細書)によれば、同号証に示されている意匠においては、引手と一体の天板部に所在し、内側方向に延びる横長台形状を呈する摘みが設けられていることがそれぞれ認められる(別紙第3のうち右各乙号証に対応する乙号表示の図参照)。
なお、被告は、前掲乙第一三号証に示されている意匠において、環状縁面の内側に溝を距てて引手が設けられ、また開封面も設けられている旨主張するが、同号証に記載されている第一図(Fig.1)に照らすと、右主張は採用できない。
しかして、右認定事実によれば、本件登録意匠に係る物品と同種の物品に関する意匠について、本件登録意匠の登録出願前、環状縁面の内側に溝を距てて、円環状引手を設けたものが存し、引手の幅は、環状縁面の幅より広いもの、ほぼ等しいもの及び狭いものがあつたこと、環状縁面と引手とを一体に連設する開封面を設けたものがあり、その幅ないし形状に数種のものがあつたことが認められるけれども、摘みについては、前記認定事実によれば、前記認定の態様のものが存したことを認めうるのみであつて、本件登録意匠の登録出願前、本件登録意匠に係る物品と同種の物品に関する意匠について、引手の内側周縁の一端から中心方向へ摘みが形成された意匠が存したことを認むべき証拠はない。
そこで、右のような公知意匠の存在を前提に、本件登録意匠について考えるに、本件登録意匠が、そのうち切開部の引手の幅を環状縁面の幅とほぼ同じものにし、開封面の円周方向の幅を広いものとした点では、前記認定のような一般に知られていた形態の一つをそれぞれ採用したものと認めうるものの、引手に形成された摘みについては、前掲乙号各証に示される公知意匠にはみられないところの引手の形態としたことによつて(即ち、摘みは引手の幅とほぼ同幅(したがつて環状縁面の幅とほぼ同じ)の高さをもつて横長台形状として、引手の内側周縁の一端から中心方向へかなり幅広に形成したことによつて)、それらを全体として把握するときは、前記のように、看者の注意を最も惹きやすい要部である切開部の形状について、特に摘みの形状が後記のとおり切開部の形状において看者に極めて異なつた印象を与えるなど、単に公知意匠の前記形態の寄せ集めとは異なる、後記特段の美的感覚を生じさせるに充分な意匠を構成するに至つたものと解するのが相当であり、したがつて、「引手の幅、開封面の幅について単純な形状のものに改変をした又は普遍化していたとおりの摘みを普遍化した部位に形成した、開封面を僅かに広幅にした等の改変をした結果生じた差異にすぎない」なる審決の認定ないし判断は、(その意味が必ずしも明確ではないが)誤りである。そして、右認定に反する趣旨の被告の主張も当裁判所の採用し難いところである。
4 以上1ないし3に認定ないし説示したところに基づいて考えるに、本件登録意匠において、切開部の引手の幅を環状縁面の幅とほぼ同じものにするとともに、開封面の円周方向の幅を広いものとしたこと及び摘みの形状によつて、甲号意匠の切開部と対比すると、本件登録意匠は甲号意匠に比し、落ちつきのある重厚さ、全体に調和のとれた安定感、及び封印冠としての力強さを感じさせるものであり、特に、本件登録意匠における摘みが、引手の内側周縁の一端から中心方向へ、前記認定の形状で大きめに形成されていることは、摘みが、引手の外側周縁の一端から外周縁方向へ、前記認定の形状で小さめに設けられている甲号意匠に比し、切開部の形状において看者に極めて異なつた印象を与えるものであつて、本件登録意匠の切開部における右特徴は、要部における著しい差異として、甲号意匠とは異なる前記美感を起こさせるものというべく、本件登録意匠と甲号意匠との切開部における差異は、部分的又は細部的な差異にすぎないものとは認め難い。
以上のとおりであつて、本件登録意匠と甲号意匠は、基本的構成態様は共通にするけれども、全体としては類似していないものというべきである。
したがつて、本件登録意匠は全体として甲号意匠に類似するとした審決には、両意匠の類否の認定、判断に誤りがあり、その誤りが審決の結論に影響を及ぼすことは明らかであるから、審決は、違法として取消しを免れない。
三 よつて、審決の違法を理由にその取消しを求める原告らの本訴請求は理由があるから、これを認容する。
〔編註その一〕 本件における請求原因は左のとおりである。
一 特許庁における手続の経緯
原告らは、意匠に係る物品を「包装用容器の封印冠」とする、別紙第1の図面に記載のとおりの構成からなる登録第四三八三一四号意匠(昭和四九年九月二七日登録出願、昭和五一年九月二五日設定登録、以下「本件登録意匠」という。)の意匠権者であるが、被告は、昭和五三年七月二二日、原告らを被請求人として、本件登録意匠につき登録を無効にすることの審判を請求し、昭和五三年審判第一一一二〇号事件として審理された結果、昭和五九年六月一二日、本件登録意匠の登録を無効とする旨の審決があり、その謄本は同月一九日原告らに送達された。
二 審決の理由の要点
1 本件登録意匠は、意匠に係る物品を「包装用容器の封印冠」とし、その全体としての構成態様を別紙第1に示すとおりにしたものと認める。
2 請求人(被告)は、登録を無効にすることの審決を求める理由として、「本件登録意匠は、その出願前、国内において頒布された刊行物である、昭和四八年特許出願公開第五七七七七号公報に掲載されている意匠(以下、「甲号意匠」という。)と基本的形状において一致しており、縁どり片や環状把手片等に相違する点があるが、この相違点は前記の一致点からすれば微差にすぎず、甲号意匠に類似するので、無効とされるべきである。」旨主張した。
被請求人ら(原告ら)は、「甲号意匠には、本件登録意匠の要部の一つである、「引手部の中心内方に引手部と連接せる小なる台形の摘み部」が全くなく、本件登録意匠の摘み部とは反対側についており、形状が相違するから、甲号意匠に類似するものではない。」旨答えた。
3 甲号意匠は、意匠に係る物品を「包装用容器の封印冠」とし、全体としての構成態様を別紙第2に示すとおりにしたものと認める。
4 そこで、本件登録意匠と甲号意匠とを比較検討するに、両意匠は、意匠に係る物品が一致していると認められるものであり、意匠に係る形態についても、全体を構成する各部の構成態様において、封緘部につき、周胴面を偏平な円錐台筒形にし、その上方周縁には内側方に環状縁面が現れるよう中央の部位に円形孔を形成したものとしている点、切開部につき、細幅の円環状に形成した引手を環状縁面に沿つて、その外周縁の一端が環状縁面の内側周縁と連続して現れるよう一体状に設けたものとしている点等の各部の基本的形状及びそれらを総合した全体の基本的な構成態様が一致していると認められるものであり、更に、各部の具体的な構成態様においても、後記の各点に差異が認められるのみであつて、その余を殆ど一致又は共通するものにしていると認められる。
即ち、両意匠は、封緘部につき、本件登録意匠は、周胴面をほぼ円筒状にし、下端周縁のみが円錐台筒形状となるよう形成しているのに対し、甲号意匠は、周胴面を僅かに円錐台筒状に形成している点、切開部につき、本件登録意匠は、引手を幅が環状縁面と同幅となるように形成したものであつて、その内側周縁の一端から中心方向へ角丸の小横長台形状の摘みを形成したものとし、その引手を環状縁面と連続した開封面及び条状の吊り片三個により環状縁面との間に細溝が現れるよう設けたものとしているのに対し、甲号意匠は、引手を幅が環状縁面のほぼ二分の一の幅となるよう形成したものであつて、その外側周縁の一端から外周縁方向へ角丸の小細長台形状の摘みを形成したものとし、その引手を細幅の開封面及び条状の吊り片二個により環状縁面との間に細溝が現れるよう設けたものとしている点等で、それぞれ差異が認められる。その他、甲号意匠が開封面の両端に短条状の切開面を形成している点、環状縁面のうち引手の摘みを形成した部位のみを小横長台形状に切欠いたものにしている点等で、それぞれ本件登録意匠と差異が認められる。
5 以上の両意匠における各事実を総合し、両意匠を全体として考察するに、両意匠における前記の各差異点のうち、封緘部の周胴面の差異は、本件登録意匠が、その出願前、意匠に係る物品を「包装用容器の封印冠」とした意匠において、偏平な円筒状のものとして普遍化していたとおりの単純な形状のものに改変をしたことによつて生じた微差にすぎないと認められ、切開部の引手の差異も、本件登録意匠が、その出願前、同種の意匠において、引手を各種の幅によるものとする、切開線や面を形成した部位の周辺又は引手を引き起こすときに適切な部位に小半円形又は角丸の小台形状等の摘みを形成したものにする、開封面の幅を各種の構成比のものにする等のことに基づき、それぞれ普遍化していたとおりの単純な形状のものに改変をした又は普遍化していたとおりの摘みを普遍化していた部位に形成した、開封面を僅かに広幅にした等の改変をした結果生じた差異にすぎないものと認められ、その他、切開面の有無、吊り片の数及びその位置、環状縁面の切欠きの有無等の差異も、本件登録意匠が、それぞれ普遍化していた範囲内のものに改変をしたことによつて生じた微細な部位における差異と認められるものであり、それぞれの差異は、何れも各部の部分的な差異又は細部的な差異にすぎないと認められるものであり、甲号意匠と意匠に係る形態のうち、上記のとおりの各差異点が認められるものであつても、前記のとおり意匠に係る物品について一致しており、意匠に係る形態についても、その殆どが一致又は共通していると認められる本件登録意匠は、全体として甲号意匠に類似するものといわざるを得ない。
6 したがつて、本件登録意匠は、意匠法第三条第一項第三号に規定した意匠に該当するものであり、その意匠登録は、同条第一項各号列記以外の部分の規定に違反してなされたものであるから、無効とすべきものとする。
三 審決を取り消すべき事由
審決は、本件登録意匠と甲号意匠における切開部の引手の差異についての認定、判断を誤り、ひいて両意匠の類否の判断を誤つた結果、本件登録意匠は甲号意匠に類似するとした違法がある。
1 本件登録意匠の基本的構成態様は、審決認定のとおりであるが、右構成態様は本件登録意匠の登録出願前公知のものであつて、特段創作性や美的価値を認めることはできないから、本件登録意匠の要部は、公知の意匠にはない新規な部分であつて、しかも看者の注意を強く惹く部分、即ち本件登録意匠の各部の具体的構成態様に存するものというべきである。
ところで、本件登録意匠の切開部の特徴は、(イ)引手の幅が環状縁面と同幅となるように形成されていること、(ロ)引手の中心部の内側周縁には、中心方向へ比較的大きい横長台形状の摘みが連続して一体に形成されていること、(ハ)引手は、前記摘みの幅(引手の円周方向における幅)より大きい幅を有する巾広でかつ著しく短い開封面を介して封緘部の環状縁面と連続して一体に形成されていることであり、甲号意匠の切開部の特徴は、(イ)引手の幅が環状縁面のほぼ二分の一となるように細幅に形成されていること、(ロ)引手の中心部の外側周縁には、外周縁方向へ角丸の小細長台形状の摘みが形成されていること、(ハ)引手は、前記摘みの幅(引手の円周方向における幅)とほぼ等幅かつ短条状の切開部によつて矩形状に形成された細幅の開封面を介して封緘部の環状縁面と連続して一体に形成されていることである。
右のとおり、本件登録意匠と甲号意匠とは、切開部の具体的構成態様において、引手の幅、開封面の形状、摘みの大きさ及びその配置などの点が相違し、この相違は、両意匠を全体的に観察したとき、本件登録意匠にあつては、甲号意匠にはない調和感、簡素感、安定感、さらに引手が環状縁面から切れないという強さを看取することができるのであつて、結局、本件登録意匠は、甲号意匠に類似していないものというべきである。
2 審決は、本件登録意匠と同種の意匠において、引手を各種の幅によるものとするとか、切開線や面を形成した部位の周辺又は引手を引き起こすときに適切な部位に小半円形又は角丸の小台形状等の摘みを形成したものにする、あるいは開封面の幅を各種の構成比のものにするなどのことが、本件登録意匠の登録出願前に普遍化していた旨認定し、このことを前提として、本件登録意匠と甲号意匠における切開部の引手の差異は、いずれも各部の部分的又は細部的な差異にすぎないとし、本件登録意匠は甲号意匠に全体として類似しているものと判断したのであるが、右事実を認めるに足りる証拠はない。
被告が提出した乙第四ないし第一六号証が、本件登録意匠に係る物品と同種の物品についての種々の公知意匠を示していることは認めるが、乙第一二号証、第一四号証に示されている意匠は、本件登録意匠と基本的形状が類似しているものの、いずれも摘みが存在せず、乙第一〇号証に示されている意匠は、本件登録意匠と全体の基本的形状が相違し、円環状係止輪の外周縁に設けられた一端突出部は、本件登録意匠の摘みに相当するものではなく、さらに、乙第一四号証を除く、その余の乙号各証に示されている意匠はいずれも本件登録意匠と全体及び各部の基本的形状が相違するものであつて、結局、乙号各証は、審決のいう前記普遍化の事実を証明するものではない。
仮に、右事実が存するとしても、本件登録意匠と甲号意匠との切開部の引手の差異を部分的又は細部的な差異にすぎないとした審決の認定、判断は誤りであり、本件登録意匠が甲号意匠に類似していないことに変わりはない。
第三 被告の答弁及び主張
一 請求の原因一及び二の事実は認める。
二 同三は争う。
審決の認定、判断に原告ら主張の誤りはなく、違法の点はない。
1 切開部の幅について
(一) 本件登録意匠と甲号意匠における切開部の引手の幅の差異は、両意匠に共通する基本的形状態様、即ち封緘部の上面に環状縁面を設け、その内側には細溝を距てて細幅円環状引手を配し、右環状縁面と円環状引手とを開封面において連結し、中央部分には円環状引手の内縁によつて区画される大きな円形孔を開設した態様のなかにあつて、印象が薄くて格別注意を惹くほどのものではなく、全体形状のなかの部分的差異にとどまるといつてよい。
(二) 乙第四ないし第一六号証は、本件登録意匠に係る物品と同種の物品についての種々の公知意匠を示しているが、これらの意匠のなかには、環状縁面の内側に溝を距てて円環状引手を設けたもの(乙第七号証の第二図、同第八号証の第1図、同第九号証の第1、第4図、同第一〇号証の第2図、同第一二号証のFig.3、Fig.6、同第一三号証のFig.2、同第一四号証のFig.2、同第一五号証のFig.2、同第一六号証のFig.2。別紙第3のうち右各乙号証に対応する乙号表示の図参照)が存する。
そして、これらの公知意匠について、環状縁面の幅と円環状引手の幅を比較すると、(1)環状縁面の幅が引手の幅より狭いもの(乙第九号証のFig.1)、(2)環状縁面の幅と引手の幅がほぼ等しいもの(乙第一二号証のFig.6)、(3)環状縁面の幅が引手の幅より広いもの(乙第七号証の第二図、同第一三号証のFig.2、同第一四号証のFig.2、同第一六号証のFig.2)など、種々の態様のものがみられる。
してみると、本件登録意匠において環状縁面の幅と円環状引手の幅とをほぼ同じにした点は、普通一般化していた(普遍化していた)形状のなかから単純な一つの形状を採用したにすぎないというべきである。
(三) なお、原告らは、環状縁面の幅のほぼ三分の二及び五分の三程度の細幅の引手を有する意匠も本件登録意匠に類似するものと認めていたのである。
このことは、乙第一ないし第三号証によつて示される意匠が原告らにより本件登録意匠の類似意匠として各意匠登録出願され、登録されている事実によつて十分推認できる。(乙第一ないし第三号証に示される類似意匠については、別紙第3のうち各同号証に対応する乙号表示の図参照)。
(四) したがつて、審決が本件登録意匠における前記円環状引手の幅に関して、これを甲号意匠に対する部分的ないし細部的な差異にすぎないと認めたのは正当であり、これを争う原告らの主張は理由がない。
2 開封面の形状について
(一) 本件登録意匠の開封面の形状は、前記1(一)に述べた本件登録意匠の全体としての形状態様のなかに埋没していて看者にとつて格別の注意を惹くところとはいえず、意匠の支配的要素とはいいがたい。したがつて、原告主張の差異は、単なる部分的差異にとどまるというべきである。
(二) 前記乙第四ないし第一六号証に示された公知意匠のなかには、環状縁面と円環状引手とをつなぐ開封面を設けたものが存し、これらの意匠にみられる開封面の幅と形状とを検討すると、切開部中央の円形孔の中心点と開封面の左右各端とを結ぶ各線のなす開き角が、(1)二〇度程度のもの(乙第九号証の補正後の第1図)、(2)二五度程度のもの(乙第七号証の第二図)、(3)三五度近くのもの(乙第一三号証のFig.2)、(4)四〇度程度のもの(乙第一二号証のFig.3)、(5)八〇度を超えるもの(乙第一四号証のFig.2)など、種々の態様のものが存する。
開封面の左右端部の形状をみても、本件登録意匠の開封面と同様の単純な形状のもの(乙第一三号証のFig.2)があるし、甲号意匠の開封面と似た形状のもの(乙第七号証の第二図)もある。
してみると、本件登録意匠において、開封面を前記開き角が四五度程度となるような幅とした点は、普通一般化していた形状のなかから単純な一つの形状を採用したにすぎないといつてよい。
(三) なお、原告らは、開封面の幅が本件登録意匠にくらべて著しく広い形状の意匠及び十分に狭い形状の意匠をも本件登録意匠に類似するものと認めていたのである。
このことは、開封面の開き角が約九〇度を示す乙第一号証の意匠や本件登録意匠とは意匠的構成を相当大きく異にするが、一対の開封面の各開き角を三〇度程度にした乙第三号証の意匠が、原告らにより本件登録意匠の類似意匠であるとされて各意匠登録出願され、登録されていることから十分推認できる。
(四) そうすると、審決が本件登録意匠における前記開封面の幅に関して、これを甲号意匠に対する部分的ないし細部的な差異にすぎないと認めたのは正当であり、これを争う原告らの主張は理由がない。
3 摘みについて
(一) 本件登録意匠において引手の環状部に突出した横長台形状の摘みを設けている点は、甲号意匠においても同様である。
そして、前記1、(一)に述べた意匠の基本的形状態様に照らすと、摘みを引手の内側方向に向けて突出させるか、外側方向に向けて突出させるかの相違は、全体としての意匠のなかに埋没しており、看者に特別の印象を与えるべき支配的要素であるとは認められない。
本件登録意匠の摘みは甲号意匠のものにくらべて少し大きくされているが、摘みとしての機能を果たす普通の大きさであつて、格別目につくものではない。
(二) 前記乙号各証に示されている公知意匠のなかには、(1)円環状引手に摘みを設けていないもの(乙第七号証の第二図)、(2)環状縁面から延びてはいるが、内側方向に小半円環形状の摘みを設けたもの(同第五、第六号証)、(3)円環状引手から外側方向に向けて小半円形の摘みを設けたもの(乙第九号証の補正後の第1図)、(4)引手と一体の天板部に所在し、延びる方向が内側に向かつてはいるが、横長台形状を呈する摘みを設けたもの(乙第一一号証のFig.11)などがある。摘みの形状のみに着目すれば、甲号意匠以外にも横長台形状の摘みをもつ公知意匠は存するのである。
そうすると、本件登録意匠における摘みの形状、大小及び延長方向などは、普通に知られている摘みを設けようとするとき、意匠創作上の工夫を要することなく、ごく一般的にありふれた摘みの形として採用できるものであつて、看る者に原告ら主張のような特別の印象を与える大きな意匠的特徴ないし意匠の支配的要素であるとはいえない。
(三) この点について敷衍すると、原告らは、到底横長台形状とはいえない小半円形状の摘みを有する意匠ですら、本件登録意匠に類似するものと認めていたのである。
このことは、乙第二号証及び同第三号証の意匠が本件登録意匠に類似する意匠として意匠登録出願され、登録されていることによつて明らかである。
(四) 以上のとおりであるから、前記のような引手の摘みの大小、形状及びその延びる方向に着目して、これを本件登録意匠の顕著な特徴と断ずることはできない。
審決が、本件登録意匠における摘みの形状等に関して、これを甲号意匠に対する部分的ないし細部の差異にすぎないと認めたのは正当であり、これを争う原告らの主張は理由がない。
〔編註その二〕 本件に関する意匠は左のとおりである。
別紙第1本件登録意匠
意匠に係る物品 包装用容器の封印冠
説明 背面図は正面図と、右側面図は左側面図と同一にあらわれる
<省略>
別紙第2甲号意匠
<省略>